『ドリトル先生航海記』の紹介文 by 福光潤
翻訳という仕事がら、語学のコツについてよくきかれます。そんなときにいつも紹介するのが、ドリトル先生に動物語を教えたポリネシア(オウム)の台詞です。
「動物のことばを覚えるには、注意ぶかくすることが、なによりもたいせつです」
この“動物のことば”には、口から出る言葉はもちろん、何気ない表情や仕草までもが含まれます。
たとえば、犬が鼻をある方向にピクッと動かすと、
「雨がやんだね。そう感じない?」
と飼主にきいているんだそうです。
あっ、いま眉毛がピクッと動いたアナタ、
「えっ、冗談でしょ?」
と、眉毛がしゃべっていますよ(笑)。
こんなふうに、あらゆる事象を“注意ぶかく”観察し、そこにメッセージを見出す力、すなわち“気づき力”こそが、語学の原動力なんだと気づかされます。
ちなみに、原書では“being a good noticer”が大事だと言っています。
直訳すると「よく気づく人であること」。井伏鱒二の意訳では「注意ぶかくすること」。さらに飛訳すれば「まれなタイミングでしか得られないと思われがちな“気づき”を、自分から積極的に集めて、うまく整理し、心の底から理解すること」となりそうです。
本書は、小学生のときに親友のハセちゃんからもらったプレゼント。毎週、山の向こうの図書館まで、一緒に自転車をとばした仲です。この本をまだ読んでいなかった僕が、表紙絵を食い入るように眺めていたのに、彼は気づいていたようです。
のちに心やさしい教師になったハセちゃん。彼の気づき力がもたらした一冊の友情から、気づき力の大切さに気づいた僕。その気づき力を語学力に昇華することで、エキサイティングな翻訳の世界に足を踏み入れることができました。そしていま、この気づき力の素晴らしさをみなさんと分かちあいたくて、キーボードをたたいています。
どうやら人生には、気づきの連鎖というメカニズムが働いているのかもしれませんね。
さぁ!
ドリトル先生&動物たちと、気づきにみちた大海原へ航海に出ましょう!
帰ってくるころには、気づき力が全身にみなぎっているはずですよ~♪