タイトル英語ビデオ
執筆:福光潤 公開:2016/12/02 コメント(2件) |
邦題
そして誰もいなくなった
- 別名:死人島(1939年)
ふりがな
そしてだれもいなくなった
- 別名:しにんとう
英題
And Then There Were None
- 別名:Ten Little Niggers(1939年)
- 別名:Ten Little Indians(1964年)
発音
あん£ェん£ェrをrナん
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意味
And | Then | There Were | None |
↓ | ↓ | ↓ | ↓ |
そして | それから | ~は存在した | 誰も~ない |
そして、その後 | 誰も存在しなかった |
⇒ そして、その後は、誰もいなかった
⇒ そして、誰もいなくなった!
⇒ 詳しい英語解説は後半のコラムへ
作品
- 1939年/イギリス/本/推理小説、ミステリー、見立て、殺人、童謡、マザー・グース、孤島
- 著者:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)
- 翻訳者:清水俊二(雑誌連載版1939年、小説版1955年)/青木久惠(2007年)
- 初訳は1939年の雑誌『スタア』連載時で、邦題は『死人島』(翻訳者:清水俊二)
★『そして誰もいなくなった』のレビュー動画(YouTube)
17秒目で『And Then There Were None』が発音されます。
★BBC制作TVドラマ『そして誰もいなくなった』(2015年)の予告編動画(YouTube)
24秒目で『And Then There Were None』が発音されます。
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コラム
- “ミステリーの女王”アガサ・クリスティーの代表作。舞台や映画、ドラマなどに、よく翻案されていますね。孤島に集められた10人が、童謡の歌詞内容にあわせて、1人ずつ死んでいき、最終的には誰もいなくなるという“クローズド・サークル(closed circle)”ミステリーの傑作。全員が死んでしまうのなら、いったい誰が何の目的で? という謎に対する答えは、小説を読んでみてのお楽しみ!
一方、英題と邦題を見くらべると、こんな謎がわいてきます。
「There Were None」が「誰もいなくなった」に相当するなら、なんで誰もおらへんのに、複数の「Were」を使ってんねん? 複数の亡霊でもおるんかいな? (お~、コワ!)
この謎を解くカギは、問題の童謡に隠されているようなので、恐る恐る見ていきましょう……。(お~、コワ!)
- 本作品で、見立て殺人の元となる童謡は、下記のとおり。
§本書からの原文引用
Ten little Indian boys went out to dine;
One choked his little self and then there were nine.
Nine little Indian boys sat up very late;
One overslept himself and then there were eight.
10人のかわいい少年たち 食事に出かけたってさ
1人が窒息 (えーっ?!) そして9人が残った
9人のかわいい少年たち 夜更かしをしたってさ
1人が寝坊 (永遠に?!) そして8人が残った
(中略)
Two little Indian boys sitting in the sun;
One got frizzled up and then there was one.
One little Indian boy left all alone;
He went and hanged himself and then there were none.
2人のかわいい少年たち 日光浴したってさ
1人が焼け焦げ (えーっ?!) そして1人が残った
1人のかわいい少年…… ひとりぼっちで寂しいあまり
自ら首をくくってしまい そして誰もいなくなった(飛訳:福光潤)
逃げだせない孤島で、この歌が現実となるんだから、やはり怖い。
そして、
いきなり「そして(And)」から始まるタイトルって変なの! と感じた方も、先行する文章の存在を知れば頷けるでしょう。
そして、
題名『そして誰もいなくなった』に得も言われぬ余韻があるのは、上記歌詞の最後の部分を抜き出した題名だからなんでしょうね…。
- そして、ここから本題のタイトル英語解説。
「none」は、「no」と「one」が合体して作られた単語なので、「誰も~ない」や「何も~ない」といった意味になります。「one」を含んでいることから、単数のイメージが基本です。
たとえば、「彼らは誰ひとりとして私の友達ではない」を、「none」を使って英訳するなら、2つの英文が考えられます。
〔正式〕
None of them is my friend.
=彼らは誰ひとりとして私の友達ではない
〔略式〕
None of them are my friends.
=彼らのゼロ人が私の友達だ
※もともと英語におけるゼロは複数イメージで捉えます。
正式には「none」が単数扱いであっても、複数人または複数個の話題であれば、動詞や補語が複数につられてしまうのが略式パターン。
上記童謡も略式パターンとなり、10人(またはゼロ人)という複数につられてしまって、単数のBe動詞「was」ではなく複数のBe動詞「were」になっています。
There were none (of the ten little Indian boys).
(10人のかわいい少年たちが)ゼロ人になった
⇒誰もいなくなった
ということで、
なんで誰もおらへんのに、複数の「Were」を使ってんねん?
の謎は、これで解けました。いなくなった10人が余韻として残っているから。
複数の亡霊でもおるんかいな? (お~、コワ!)
の謎も、これで解けました。いなくなった10人が余韻として残っているのだから。
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(マジ怖っ!)
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- ちなみに、童謡『十人のインディアン(Ten Little Indians)』は、「ひ~とり、ふ~たり、さんにんのインディアン♪」などと歌われ、日本でも親しまれてきました。
しかし、その原曲は、1868年にアメリカで発表された『Ten Little Injuns』で、上記引用のように残酷な歌詞でした。※「Injun」は「Indian」の変形で、ネイティブアメリカン(Native American)の蔑称。
翌1869年にイギリスで翻案されたバージョンが、『Ten Little Nigger Boys』です。
※「Nigger」は「Negro」の変形で、アフリカ系アメリカ人(African American)の蔑称。
このバージョンは、英国古来の伝承童謡を集めた『マザー・グース』に収録され、手元の『マザー・グース 4』(1981年、翻訳者:谷川俊太郎)にも『十にんのニグロのこども』として和訳されています。
そして、
アガサ・クリスティーが英国で本作を発表した1939年当時の原題は『Ten Little Niggers』で、英国版童謡『Ten Little Nigger Boys』をベースに書かれた内容でした(このときの小説邦題は『死人島』)。
10人の黒人が次々と消える内容の歌に基づいた殺人を描く小説に、差別用語「Nigger」を含むタイトルまで付いていると、さすがにアメリカで出版するわけにもいかず、タイトルが差し替わります。
童謡の出だしフレーズから、末尾のフレーズ、つまり、『And Then There Were None』に変更されました。
10人の黒人が次々と消える内容の歌に基づいた殺人を描く小説に、差別用語「Nigger」を含むタイトルまで付いていると、さすがにアメリカで出版するわけにもいかず、タイトルが差し替わります。
童謡の出だしフレーズから、末尾のフレーズ、つまり、『And Then There Were None』に変更されました。
そして、
イギリス本国でもアメリカにならってタイトル変更。めでたく『And Then There Were None』に落ち着きました!
そして、
作品内の童謡も『Ten Little Indian Boys』が長らく使われていました。
And then (そして、その後)
さらに時代は流れて、「Indian(インディアン)」も差別用語となり、今は『Ten Little Soldier Boys(十人の兵隊さん)』となっています。
そして、
舞台となる孤島の呼び名も、以下のように変遷してきました。
Nigger Island(ニガー島) |
↓ |
Indian Island(インディアン島) |
↓ |
Soldier Island(兵隊島) |
- 孤島名の変遷とえいば、最初の映画化作品『そして誰もいなくなった(And Then There Were None)』(1945年、アメリカ)は、原作どおり、孤島を舞台にしていますが、その後の映画化では、場所を置き換えています。
- 『姿なき殺人者(Ten Little Indians)』
(1965年、イギリス)
…冬の山荘 - 『そして誰もいなくなった(Ten Little Indians)』
(1974年、伊・西独・仏・西・英)
…砂漠 - 『10人の小さな黒人(Десять негритят)』
(1987年、ソ連)
…岬 - 『サファリ殺人事件(Ten Little Indians)』
(1989年、イギリス)
…サバンナ!
- 『姿なき殺人者(Ten Little Indians)』
And then (そして、その後)
BBC制作TVドラマ『そして誰もいなくなった(And Then There Were None)』(2015年、イギリス)では、ふたたび孤島にもどってきました。
- いかがでしたか? 本作のタイトル英語にまつわる英文法や歴史の理解が深まり、冒頭で抱いていた怖さが、どこかへ消えちゃいましたね。
And then there are no mysteries!
そして謎もなくなった!
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