執筆:福光潤 公開:2013/01/29 コメント(2件) |
邦題
ノルウェーの森
- 別名:ノルウェーの森(鳥は飛んだ)
別名:ノーウェジアン・ウッド(ノルウェーの森)
別名:ノーウェジアン・ウッド(ノルウェイの森)
別名:ノルウェーの森(ノーウェジアン・ウッド)
ふりがな
のるうぇーのもり
- 別名:のるうぇーのもり とりはとんだ
別名:のーうぇじあんうっど のるうぇーのもり
別名:のーうぇじあんうっど のるうぇいのもり
別名:のるうぇーのもり のーうぇじあんうっど
英題
Norwegian Wood (This Bird Has Flown)
発音
のーrウィーじゅんWゥっどぅ £ィすブrーどぅはずfロうん
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意味
Norwegian | Wood | This | Bird | Has Flown |
↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ |
ノルウェーの | 木材 | この | 鳥、娘 | 飛び去った |
⇒ ノルウェーの木材(この鳥は飛んでった)
⇒ ノルウェーの木材を自慢していたあの娘は、去ってしまった
⇒ 詳しい英語解説は後半のコラムへ
作品
- 1965年/イギリス/音楽/ロック
- 作詞・作曲:ジョン・レノン(John Lennon)、ポール・マッカートニー(Paul McCartney)
- 歌・演奏:ザ・ビートルズ(The Beatles)
- 6thアルバム『ラバー・ソウル(Rubber Soul)』収録
- 映画『ノルウェイの森』(2010年、日本)主題歌
★『ノルウェーの森』の楽曲動画(YouTube)
29秒目等で『Norwegian Wood (This Bird Has Flown)』(副題以外)が発音されます。
★映画『ノルウェイの森』の予告編動画(YouTube)
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コラム
- シタール(北インド発祥の弦楽器)の音が印象的なのに、インドっぽい雰囲気をほとんど感じさせない、独特のメロディー音階♪
それにタイトルで「Norwegian=Norway(ノルウェー)の」と言われたら、これがノルウェーっぽいサウンドなのか! と思っちゃいますよね。
いったい、ノルウェーの何が歌われているんでしょうか? さっそく具体的に見ていきましょう!
- ナンパした女の子の部屋についていった or つれこまれた、という場面で始まるジョン・レノンの浮気未遂ソングです。彼女はジョンを部屋に案内しつつ、こう言って自慢します。
♪歌詞引用
Isn't it good, Norwegian wood?
いいでしょ、ノーウェジアン・ウッド(簡訳:福光潤)
「wood」といえば「木材」、「woods」だったら「森」です。「Woods」なら「Tiger Woods(タイガー・ウッズ)」のような姓となります。
「-s」のない「wood」が「森」を意味する場合もあるので、ひとまず邦題どおりに「ノルウェーの森」と解釈してみましょうか。「Isn't it good?」の「it」が何を指すかで分けてみます。
・壁に掛けてるノルウェーの森の写真、いいでしょ?
・ノルウェーの森をイメージした部屋、いいでしょ?
・いいよね、ノルウェーの森って。行ったことある?
と、「森」説で考えると、唐突で漠然とした感じがします。でも、「いいでしょ」と自慢するなら、持ち物の素材では?
・ノルウェーの木材で建てられたこの家、いいでしょ?
・内装にはノルウェーの木材使ってるの、いいでしょ?
・ノルウェー産の木製家具なんだよコレ、いいでしょ?
♪歌詞引用
Isn't it good, Norwegian wood?
いいでしょ、ノルウェー産の木材なの(飛訳:福光潤)
ポール・マッカトニーの談によれば、当時流行ったノルウェー木材=安価なパイン材のことだそうです。
彼女がオシャレな木材のインテリアを自慢している、といった大雑把な解釈でいいんじゃないでしょうか。
他説では「knowing she would」をもじっているとか、果ては「Norwegian Wood」という銘柄のお香だとか…。
- 副題の「(This Bird Has Flown)」は、目覚めたら彼女がいなくなっていた、という、最後の方で歌われる一文。
「bird」=「鳥」は、英国スラングとして、若い女の娘やガールフレンドも指しますが、「この鳥は飛び去った」で詩的に解釈可能。
「fly(飛ぶ)」は「fly - flew - flown」で、「flow(流れる)」は「flow - flowed - flowed」、と変化しますが、プロ翻訳者も混同するパターンです。
単なる過去形の「flew」じゃなく、現在完了形にして「has flown」と言うことで、「飛んでっちゃった!(まだ戻ってきていないし…)」となり、今抱いている喪失感を含めることができます。
- タイトルも歌詞も解釈があいまいで難しいということで、誤訳論争を引き起こしたことで有名な『ノルウェーの森』。
この曲が収録されているアルバム『ラバー・ソウル』のCD(1998年発売)を見てみると、『ノーウェジアン・ウッド(ノルウェーの森)』というカタカナ表記の邦題で、誤訳ツッコミ対策をしています。
素敵な題名『ノルウェーの森』の生みの親は、「邦題の魔術師」と崇められた高嶋弘之さん(東芝の初代ビートルズ担当ディレクター)。
邦題決定にはセンスある翻訳を必要とします。『ノルウェーの森』という命名がなかったら、村上春樹さんはインスピレーションを得ることなく、小説『ノルウェイの森』も生まれなかったでしょう!
§引用1(高嶋さんのインタビューより)
あれ「ノルウェー製家具」ですよ。そんなもん知るかってことですよ。パッと聞いたら「ノルウェーの森」って、浮かんだんですよ。
§引用2(高嶋さんの記事より;日経BPムック『大人のロック! ザ・ビートルズ1962-1966「赤の時代」の衝撃』10頁)
原題「Norwegian Wood」を見て、曲を聴いて、即座にひらめいたタイトルだった。ところが、実はノルウェー製家具のことが歌われているのだと、イギリス人に腹を抱えて笑われた。
たしかに、拙著『翻訳者はウソをつく!』124頁で、「誤訳系タイトル」に分類していますが(^^;)、タイトル翻訳の世界では、誤訳も意訳のうち。
売れる要素を持つタイトルを目指しているので、誤訳かどうかで話題になれば、それもまた良し!
そういう意味では、わざわざ誤訳論争に終止符を打たなくてもいいのかもしれませんね。
誤訳論争よ、永遠なれ!
- 最後に、ボクが「ノルウェーの森」を誤訳とみなす根拠は、ポールが手伝ったといわれる歌詞の結末パートにあります。
♪歌詞引用
And when I awoke I was alone
This bird has flown
So I lit a fire
Isn't it good, Norwegian wood?
翌朝 目が覚めると俺ひとり
かわいい小鳥は飛んでいってしまった
俺は暖炉に火をくべた
まるでノルウェーの森にいるみたいだ(対訳:内田久美子)
このCDブックレット対訳は、後半2行の訳に無理があるようです。日本人好みで、余韻にひたれるエンディングですが、原文からは「森にいる」も「みたいだ」も読み取れません。
言い換えてみましょう。
だから 火をつけた
いいねぇ、ノルウェー産の木って(火訳:福光潤)
では、何に「火をつけた」のでしょうか?- 暖炉に火を付けた
この場合、ノルウェー産の薪をくべたことになりそうです。(ちなみに「火をくべる」は誤り→「~を火にくべる」) - 煙草に火を付けた
作曲当時、英国で北欧産のマッチが多く使われていたので、「Made in Norway」などのマッチで火を付けたことになります。 - 部屋に火を付けた
ひとり部屋に残された腹いせで、彼女が自慢していたノルウェー木材に放火してやったというオチだそうです、ポールの談によれば。あと、ノルウェー産のパイン材は安価で燃えやすいよ、とも!
- 暖炉に火を付けた
上記3つのいずれの解釈で火を付けたとしても、「彼女の言ったとおり、ノルウェー産の木っていいねぇ」と、感慨深げに、皮肉めいた一言をもらす幕切れがジョンらしく、「wood」は「森」でなく「木材」でしょう、という結論です!
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