執筆:福光潤 公開:2008/10/21 コメント(3件) |
邦題
人間失格
ふりがな
にんげんしっかく
英題
No Longer Human
発音
ノうローんぐrヒューむん
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意味
No | Longer | Human |
↓ | ↓ | ↓ |
ない | これより長く | 人間である |
もはや~ない |
⇒ もはや人間ではない
⇒ 詳しい英語解説は後半のコラムへ
作品
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コラム
- 今回のタイトル英語『No Longer Human』には、重要フレーズが入っています!
no longer = もはや~ない
はい、こんどのテストに出るから赤線~!
と、いくら学校のセンセに教えてもらっても、わかりません、覚えられません、使えません! という方、たくさんいらっしゃると思います。
だいいち、「もはや~ない」という意味自体、ひとことでスパッと言い切っていないところ、いさぎよくないというか、中途半端というか、「~」に何がくるか予測不能で、不安を煽り、最終的な和訳はセンスにかかっていそうだし、もはや付き合ってられましぇ~ん!って感じの和訳です。
- フクミツも日本語圏で育ったので、「no なんちゃら」系の表現は、正直いまだにニガテなんです。
ここで英語表現のことは忘れて、日本語についてこんな事実を思い出しましょう!
そもそも日本語の否定って、ありえなくまどろっこしい!
どういうことかというと、こんな感じです。
兵庫県教育委員会によれば、
県下の各小学校において、算数の時間に、
ルービックキューブの6面解法を教える
ということは、行っていないようである。
という例文は、最後の最後に「~ない」という言葉が出現した瞬間、いままで積み上げてきた情報ブロックの塔が瓦解!
そんな噂があったのか? 他県では教えているのか? 中高生には教えているのか? 算数以外の時間に教えているのか? 6面でなく1面までなら教えているのか? スネークキューブ(古っ!)なら教えているのか?
こんな疑問が同時多発的に暴発しますが、そこをグッとこらえ胸中に秘めるのが我々日本語ネイティブスピーカーの宿命!
たぶん自分が知らない時事情報のせいで、この文に違和感を抱いてるんだろうなぁと、自己犠牲の本能が働いちゃうのかも!
そこで、日本語の否定界における救世主! 「もはや」がさっそうと登場することで、その文が「~ない」で終わることを予め約束してくれます!
兵庫県教育委員会によれば、もはや、
県下の各小学校において、算数の時間に、
ルービックキューブの6面解法を教える
ということは、行っていないようである。
読み手がどうあがいても、2行目からは否定的なエンディングを覚悟してしまう! そして、今回知った否定的な現状よりも、これまでそんな教育してたの? マジで? という過去の事実への驚きを禁じえない!
それほどに「もはや」の登場は衝撃的!
この否定界の救世主には何種類かありますが、「もはや」は病院における聖職者タイプ! 映画などで、末期症状の患者さんの病室に牧師さん( or 神父さん、お坊さん)が顔を出すだけで、アカン、もう終わりや! と、患者は「生の否定」=「死の宣告」を覚悟。
文のはじめの方に出てくる「もはや」は、これまで継続していたことにケリをつけ、もう終わっている状態を認めさせる標識。
- さてと、英語にもどりましょう!
“否定界の救世主”などと大げさに考えなくても、英語では否定フレーズが前方にあって当たり前! 最後まで読まなきゃという“まどろっこしさ”は、英文ではあまり考えられません。
According to 兵庫県教育委員会,
県下の各小学校 no longer teaches
how to solve a ルービックキューブ in 算数の時間.
早い段階で、「どんな教育が廃止されたのか?」と、後半の読み方を決められるのでスッキリ! そして、そんなもん教えてたの? とビックリ!
- 「longer」の部分に注目すると、「long」+「-er」となっています(比較級)。
This yam is not longer than that yam.
この長芋は、あの長芋ほど長くない。
のように、「-er」には「than 基準」がつきもの。その基準“より”上か下か、大か小か、前か後か。
「no longer」についても、「もはや~ない」と訳語を覚えるよりも、基準時点にフォーカス!
上に出てきた日本語「もはや」の意味合い:
これまで継続していたことにケリをつけ、
もう終わっている状態を認めさせる標識。
の中の、「ケリ」がついた時点が基準です。
「もはや、その基準より前の状態ではない」という未練を残した感傷的な文を作るのが、「no longer」!
- もはや長芋どころじゃないほど長いコラムになりつつありますが、ようやくタイトル英語にもどると、こうなります。
No Longer Human
もはや人間ではない
先頭に「I am」をおぎなって文にすると、最後に廃人同然となった主人公“自分”の独白となります。
I am no longer human.
自分は、もはや人間ではない。
いくら本人がそう悟っても、以前は人間だったが…、という文である以上、やっぱり未練を残す表現です。
じゃ、どの時点から人間ではなくなったのだろうか? 少年性的虐待、アル中、心中未遂、モルヒネ中毒、精神疾患。いや、そういう表面的な出来事ではなく、もっと違う次元に、人間でなくなるきっかけがありそうかも…。
などと、読書中にも想像をかきたてるべく、ドナルド・キーンさんが狙った意訳型英題。それが『No Longer Human』でした!
- ちなみに、邦題『人間失格』の直訳(a literal translation of the Japanese title)として、ペーパーバック裏表紙には、こう書いてあります。
disqualified from being human
これも、アタマに「I am 」を追加すると、文になります。
I am disqualified from being human.
人間であるという資格を剥奪されています。
⇒ 自分は人間失格です。
そうすると、人間失格にいたるストーリーではなく、紛争地域を舞台にした人権問題を扱う社会派小説か、アンドロイド狩りの近未来SFっぽくなりそうです。
オマエ、それなぁ、人間として失格やで、ホンマにもう(-_-;)
のように、日本語会話で「失格」という単語は、大げさながらも、おどけた感じで使えますよね。
でも、英会話で「disqualified」という単語は、大げさかつ全面否定的なイメージで厳しいかも!
そんな英日間の語感バランスも考慮してみると、たしかに「no longer」の方がピッタリです。
- 最後に、小説本文中に邦題『人間失格』が登場するのは終盤の1箇所のみ。
人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
Disqualified as a human being.
I had now ceased utterly to be a human being.
人間であり続ける未来を完全否定した流麗なる英訳文なり。
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